東京地方裁判所 平成3年(行ウ)145号 判決 1992年2月27日
千葉県佐倉市新町五〇番地一
原告(選定当事者)
小澤功子
選定者
別紙選定者目録のとおり
東京都千代田区霞が関三丁目一番一号
被告
国税不服審判所長 杉山伸顕
右指定代理人
佐藤鉄雄
同
仲田光雄
同
河村秀尾
同
上田幸穂
主文
一 原告の請求をいずれも棄却する。
二 訴訟費用は原告の負担とする。
第一当事者の求める裁判
一 請求の趣旨
1 小澤美惠子の昭和六一年文及び昭和六三年分の各所得税について成田税務署長がした更正につき被告がこれに対してされた審査請求を平成三年五月七日付けで棄却した裁決を取り消す。
2 小澤喜一郎の昭和六一年分所得税について成田税務所長がした更正につき被告がこれに対してされた審査請求を平成三年五月七日付けで棄却した裁決を取り消す。
3 訴訟費用は被告の負担とする。
二 請求の趣旨に対する答弁
主文同旨
第二当事者の主張
一 請求原因
1 小澤美惠子(以下「美惠子」という。)は、昭和六一年分及び昭和六三年分の各所得税について、別表第一の順号1記載のとおり成田税務署長に対する確定申告をしたところ、右各申告に対して同税務署長は平成元年七月四日付けで同表の順号2記載のとおり更正をした(以下各歴年に従って「美惠子に係る六一年分更正」、「美惠子に係る六三年分更正」といい、両者を併せて「美惠子に係る各更正」という。)。美惠子は、同年八月三一日美惠子に係る各更正につき同税務署長に対し異議申立てをしたところ、同税務署長は、同年一一月二八日付けで同表の順号3記載のとおり決定をした。美惠子は、更に同年一二月一八日美惠子に係る各更正(美惠子に係る六三年分更正については右異議決定により一部取り消された後のもの)につき被告に対する審査請求をしたところ(以下「美惠子に係る審査請求」という。)、被告は、平成三年五月七日付けで同表の順号4記載のとおり裁決をした(以下「美惠子に係る裁決」という。)。なお、美惠子は右審査請求後の平成二年三月二一日に死亡し、その相続人である原告、選定者小澤喜之輔、同柳谷慶子及び同松島淳子が美惠子の審査請求人の地位を継承した。
2 小澤喜一郎(昭和六一年六月一一日死亡。以下「喜一郎」という。)の昭和六一年分所得税について、その相続人である美惠子、原告、選定者小澤喜之輔、同柳谷慶子及び同松島淳子は、所得税法一二五条に基づいて別表第二の順号1記載のとおり確定申告をしたところ、右申告に対し成田税務署長は平成元年一一月二九日付けで同表の順号2記載のとおり更正をした(以下「喜一郎に係る更正」という。)。美惠子、原告、選定者小澤喜之輔、同柳谷慶子及び同松島淳子は、同年一二月二七日喜一郎に係る更正につき成田税務署長に対する異議申立てをしたところ、同税務署長は平成二年三月二二日付けで同表の順号3記載のとおり決定をした。原告、選定者小澤喜之輔、同柳谷慶子及び同松島淳子は、更に同年四月一三日喜一郎に係る更正につき被告に対する審査請求をしたところ(以下「喜一郎に係る審査請求」という。)、被告は平成三年五月七日付けで同表の順号4記載のとおり裁決をした(以下「喜一郎に係る裁決」という。)。なお、右1のとおり、美惠子の死亡に伴い、原告、選定者小澤喜之輔、同柳谷慶子及び同松島淳子が喜一郎に係る更正についての美惠子の不服申立人の地位を継承した。
3 ところで、成田税務署長は、喜一郎の昭和六〇年分所得税については、その不動産所得に係る必要経費としての租税公課の額を一九七万七五三〇円としていながら、美惠子に係る六一年分更正及び喜一郎に係る更正においては、各不動産所得の計算上、その必要経費としての租税公課の額を九三万六四一五円とし、また、美惠子に係る六三年分更正においては不動産所得に係る必要経費としての租税公課の額を九六万三一九六円としているので、原告ほかの審査請求人が、右のように租税公課の額が異なっている理由を明らかにするよう求めたが、被告は、その理由が明らかにされていないのに、美惠子に係る裁決及び喜一郎に係る裁決をした。したがって、右各裁決にはいずれも審理不尽の違法がある。
よって、原告は、美惠子に係る裁決及び喜一郎に係る裁決の各取消しを求める。
二 請求原因に対する被告の認否及び主張
1 請求原因1及び2の各事実は認める。
2 同3の事実中、成田税務署長が、美惠子に係る六一年分更正の不動産所得の計算上必要経費としての租税公課の額を九三万六四一五円としたこと及び美惠子に係る六三年分更正の不動産所得の計算上必要経費としての租税公課の額を九六万三一九六円としたことは否認する(九三万六四一五円は喜一郎の不動産所得に係る必要経費としての租税公課の額であり、美惠子の昭和六三年分のそれは四八万一五九八円(九六万三一九六円に美惠子の法定相続分二分の一を乗じた金額)である。)。同税務署長が喜一郎の昭和六〇年分所得税について不動産所得に係る必要経費としての租税公課の額を一九七万七五三〇円としたこと、右各租税公課の額が異なる理由を回答しなかったことは知らない。その余の事実は認めるが、美惠子に係る裁決及び喜一郎に係る裁決に審理不尽の違法があるとの主張は争う。
3 被告の主張
裁決の取消しを求める訴えにおいては、その裁決固有の違法事由のみを主張することができるところ(行政事件訴訟法一〇条二項)、原告が主張する、成田税務署長が、喜一郎の昭和六〇年分所得税の不動産所得に係る必要経費としての租税公課の額と美惠子に係る六一年分更正及び喜一郎に係る更正並びに美惠子に係る六三年分更正における各不動産所得の必要経費としての租税公課の額とが異なる理由を回答しなかったことは、いずれも美惠子に係る審査請求及び喜一郎に係る審査請求とは無関係の事柄であり、裁決固有の違法事由に該当しない。
したがって、原告の本訴請求は失当である。
三 被告の主張に対する原告の認否
被告の主張は争う。
第三証拠
本件訴訟記録中の書証目録に記載のとおりであるから、これを引用する。
理由
一 請求原因1及び2の各事実は当事者間に争いがない。
二 所得税の更正に対する審査請求に対して被告がした裁決の取消しを求める訴えにおいては、原告は当該更正の違法を理由としては裁決の取消しを求めることができないこととされている(行政事件訴訟法一〇条二項)。
原告は、美惠子に係る審査請求及び喜一郎に係る審査請求の審理において、喜一郎の昭和六〇年分所得税の不動産所得に係る必要経費としての租税公課の額と美惠子に係る六一年分更正及び喜一郎に係る更正並びに美惠子に係る六三年分更正の各不動産所得に係る必要経費としての租税公課の額とが異なる理由を明らかにするよう求めたにもかかわらず、これに対する回答のないまま、美惠子に係る裁決及び喜一郎に係る裁決がなされたから、右各裁決には、いずれも審理不尽の違法がある旨主張する。原告主張のような額の相違があるとすれば、その理由を明らかにすることのできるのは、そのような相違のある更正をした成田税務署長ということになろう。しかしながら、審査請求の審理において、更正の理由とされたもののうち審査請求人が疑問とする点について、原処分をした税務署長に審査請求人に対し説明、回答をする義務を課した法令の規定はなく、また、担当審判官に税務署長に対し右の説明、回答を命じ、又は促す義務を課した法令の規定もないから、税務署長がそのような審査請求人の要求に応ぜず、又は担当審判官が税務署長に対し右の説明、回答を命じないで裁決がされたとしても、特段の事由がない限り当該裁決に審理不尽の違法があるとはいえず、本件においては右特段の事由に当たるような事実の主張立証はない。そうすると、原告が主張する右のような事由は美惠子に係る裁決及び喜一郎に係る裁決の違法事由とはいえない。また、原告は、他に更正についてのものとは別の右各裁決に固有の違法事由を主張するものではない。
五 以上によれば、原告の本訴請求はいずれも理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法七条、民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 中込秀樹 裁判官 石原直樹 裁判官 長屋文裕)
(別紙)
選定者目録
千葉県佐倉市新町五〇番地一
小澤功子
千葉県鎌ケ谷市鎌ケ谷一丁目七番一八号三〇三号室
小澤喜之輔
千葉県佐倉市鏑木町一〇四七番地三七
柳谷慶子
横浜市栄区笠間町五二一番地 第二大船パークタウンD棟七〇六号室
松島淳子
(別表第一)
美惠子に係る課税処分の経緯
<省略>
(別表第二)
喜一郎に係る課税処分の経緯
<省略>